入り間違えるトイレ考
突然ですが、
皆さんはトイレに入り間違ったことはあるでしょうか。
はい、いきなり意味が分からないですね。
すみません。
つまり、
男子であるのに女子トイレに入ってしまった。
もしくは、女子であるのに男子トイレに入ってしまった。
このような経験、皆さんはお持ちでしょうか。
私はあります。
ある日の夕刻。用事が済み、特に急ぐこともないので、悠々と帰り支度をしていました。
それも終わり、さて帰ろうかというとき、何気なくトイレに入ると……
ん? おぉ!?
あれ!? 見慣れた立ち小便器が無い!!
なんで個室ばっかりなの!?!?
えっ??????????????????
なんで!?!?!?!!?!?!?!?!?!
そうです。心も体も男の私は、誤って女子トイレに入ってしまったのです。
誤って、ですよ。ホントに。ホントですって。*1
幸い、その場に人はいらっしゃらなかったので事無きを得ましたが、自分自身とても驚きました。
なんてったって、完全に無意識だったんですから。
そのときの感情は、羞恥心以上に、自分の行動に対する驚愕が強かったのを、今でも覚えています。
しかし、話はここからです。
これと全く同じ出来事が、さらにもう一度ありまして。
このときもまた、全く意識せずに、気づいたらそこに立っていました。
1度目と同様、さもそれが当然であるかのように、自然と足を踏み入れていました。
2度目はさすがに絶望しましたね。何をやっているんだ自分は、と。
原因の所在
このようなことが2度も起こり、私は考えました。
その原因は、どこにあるのかと。
まず、押さえておかなければいけないのは、これら2回の事故、実はどちらも同じトイレで起こったということです。
逆に言えば、それ以外のトイレでは、このようなことは今まで一切ありませんでした。
ここからわかること。
それは、(自分の注意力欠如はさておき、)そのトイレ自体に原因があって、入り間違いが起こっていたということです。
決して頻繁に使用するトイレではありませんでした。それでも、2度も同じミスが起こったのです。
それを考えると、このトイレに何らかの仕掛けが隠されているはずです。
そうでなければ、他のトイレでも同じようなことが起こっているはずですから。
ここからは、入り間違いをしてしまった具体的な原因を探っていきます。
原因究明
何に誘発された出来事だったのか。
結論を先取りすると、このトイレ、サインの掲示のしかたがわかりにくかったんです。
そうです。あれですよ、あれ。
サインの掲示がわかりにくいと言いましたが、例のピクトグラムが原因でトイレに入り間違ってしまうという事故は、既に報告されていました。
「6年目にして謎が解けた」何度も間違えた学校のトイレ、その理由にハッとする
grape編集部
しかし、私が2度入り間違ったトイレのピクトグラムはこれです。
………とっても普通。
とりあえず、男子と女子の見分けはつきますね。
そう、ピクトグラムが悪いわけじゃなかったんです。
では、次の写真を見てください。
この写真は、まさに、私がトイレに向かうときの状況そのままを写したものです。
さて、皆さんはどちらが男子トイレで、どちらが女子トイレだと思いますか。
私はそのとき、この景色を見て「左が女子トイレ、右が男子トイレ」だと判断しました。
そう見えますか?
しかし、実際はというと、左は男子トイレ、右は女子トイレだったのです。
状況を整理しましょう。
男女が並んでいる方のサインは、左に女性が、右に男性が描かれています。
サインボードは、横並びのトイレに対して垂直に設置されていますが、右に90度、入口に照らし合わせるような方向への脳内回転運動を経て、「左が女子トイレ」「右が男子トイレ」ということを表す表示であると認識しました。
しかし、その判断結果は、実際のトイレの配置とは食い違っているのです。
サインボードから誤った情報を得たことで、私はトイレに入り間違った。
状況証拠から考えて、これはおそらく正しい推論でしょう。
なぜ、このようなサインが…
そもそも、このサインボードは何の役割を果たしているのでしょうか。
おそらく、これは単に「そこにトイレがある」という案内であり、男子トイレと女子トイレの位置を表示しているものではないと思われます。
写真のように正面に立つと、本来の「男子トイレ」と「女子トイレ」の表示が現れます。
そのため、歩行者が脇から見たときに、「そこにトイレがある」ということを知らせることができれば、このサインボードの任務は達成されるのです。
しかし。
すっきりとして見通しのよい廊下、シックなデザインのトイレ入り口。非常に少ない視覚情報。その中で、ニーズと完全に合致した、まとまった情報が目に入ってきます。
それが、あのサインだったのです。
私が入り口に至った時点では、既に「右が男子トイレである」という暗示にかかりきっているほど、このサインの無自覚な誘導は強烈なものでした。
(それに比べ、「女子トイレ」の表示はあまりにも影が薄かった。)
対人関係において、第一印象はその後に強い影響を及ぼすと言いますが、トイレについても同じように、一番初めに見たサインがそのトイレの本質だと思ってしまった。
そういうわけです。
同じ事故が繰り返されないためにも、誤解のないような表示のしかたを求めます。
さて、真面目な話をすると、ピクトグラムのデザイン問題のように、「表示がわかりにくい」という事例はよくあります。そのため、デザイナーは細心の注意をはらい、精一杯に技巧を凝らすでしょう。
しかし、今回の例のように、実際に設置してみなければ分からないとか、デザインだけの問題ではないという「不測の事態」は、十分に起き得ることがわかります。
ときには全体を眺め、実際の現場を見つめることが大切かもしれません。
きっと、デザイニング以外についても、同じことが言えるでしょう。
実は、まだ一つの謎が残っている。
先ほどの写真で見えていた面の、裏側を見てほしい。
お気づきだろうか。
こちらの面には、左側に男性が、右側に女性が描かれている。
これだったら、入り間違うことはない。
このサインボードは、2枚のプレートを貼り合わせることで作られている。
ということは、表と裏、2枚のプレートを別の構図で発注したということだ。
一方は「左が女、右が男」、
もう一方は「左が男、右が女」と。
通常、何らかの意図がなければこのようなことはせず、同一のものを2枚発注するのではなかろうか。
これは、ただの偶然なのか。それとも……
*1:ホントです。